▶社会や産業を変える人工知能の未来

■講師:東京大学大学院工学系研究科教授 松尾 豊 氏
■日時:2019年11月8日 16時~17時
■場所:ロイヤルパークホテル(人形町)

松尾さんの講演会でAIについて話をお聴きしましたので概要と感想を掲載します。AIは、これからの社会や産業の発展を支えるキーになる技術ということが理解できました。AIが社会を今よりもっと良くしていくためのエンジンになるのではないかと思いました。(高25期 廣瀬隆夫)

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最近のAIの進化は目覚ましいものがあり、AIを使ったプログラムはどんどん進化している。碁の名人でもGoogleのアルファ碁に勝てなくなってきた。IBMのワトソンという人工知能はクイズ番組でチャンピオンを打ち負かした。日本でも2021年までにAIで東大合格をめざす「東ロボくん」というプロジェクトが進んでおり、私大の8割の大学でA判定が出るようになった。

AIは1960年代から開発が始まり、推論と検索に始まった第一次、エキスパートシステムに組み込まれた第二次を経て、今はディープラーニングによる第三次AIブームが到来している。AIの処理には、強力な処理能力を持ったCPUと、膨大なメモリが必要であったが、ムーアの法則に従って倍々ゲームでコンピュータは進化して、今では当時に比べて処理能力が150倍、メモリ容量が3000倍にまで上がっている。さらに、CPU同士を高速なネットワークで繋いで処理能力を高める分散コンピューティングクラウドコンピューティングとも連携することでAIはさらに進化している。
【これまでのICTの進化(総務省)】
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc261110.html

人間は川に浮かぶ木の葉をまねてヨットを作ったように自然を模倣して機械を作ってきた。機械を作るとき、形態をまねる方法と機能を再現する方法がある。飛行機は鳥をまねて作られたが、鳥のように羽ばたくのではなく、空気の揚力という物理現象を利用している。AIのアプローチも、人間の脳をそのまま模倣するのでなく、コンピュータを使って脳の機能を再現しようとしている。今までは人間が教師になり解き方をインプットしていたが、AIが自ら解き方を発見するまでに進化している。

AIのプログラムは、入力があり、何らかの処理があり、出力があるという関数を解いている。ただし、単純な関数でなく、出力が次の処理の入力になるということが繰り返されて、階層がどんどん深くなっていく関数である。そのために多くのメモリとCPUパワーが必要となる。ディープラーニング(深層学習)とは、階層構造を深くしながら学んでいくシステムという意味である。

近年、AIが急速に利用領域を広げたのは、画像認識の精度が上がったためである。画像処理を高速に実行できるGPU(Graphics Processing Unit)が開発されて、この10年で、画像認識の誤り率は10分の1になった。今では、AIの画像認識の精度においては人間よりも優れていると言われている。
【画像認識が人間の眼を超えた】
https://logmi.jp/business/articles/155365

AIが人間の眼に相当する画像認識の能力を手に入れたことにより、今まで言語処理だけにしか使えなかったAIが一気に利用領域を広げた。生物の世界でも、5億4千万年前にカンブリア爆発が起きて急激に生物が増えた時期があった。AIが眼を手に入れたことにより、これと同じことが起きようとしている。機械が眼を持ち、推論しながら動くAIの利用分野は飛躍的に広がった。農業では、収穫時期の判定、建設では、測量、食品加工では、商品の加工、機械の組み立て工程、画像上のがんの発見など利用分野は広い。

1980年代の高度成長期には、日本が製品化したビデオ、テレビ、ウォークマンなどの家電が世界を席巻した。しかし、20世紀の後半にパソコンやインターネットが出てきてアナログからデジタルに移行した時に競争に乗り遅れた。世界の時価総額ランキングを見ると、1989(平成1)年ではNTTが群を抜いて首位であり、TOP5を日本企業が独占していたにもかかわらず、2018(平成30)年では、上位はGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などの米国や中国の企業に独占されて、日本企業は、35位にトヨタ自動車がランクインしているだけという凋落ぶりである。
【平成30年間の経済停滞を振り返る(週刊ダイヤモンド)】
https://diamond.jp/articles/-/177641?page=2

日本は、元々、ものづくりに強い国である。これにディープラーニングの「眼」の技術を導入すれば、自動運転、加工の自動化、介護の自動化、農作業の自動化、画像診断の自動化などで優位に立つことができるのではないか。今後、高齢化、少子化が進むと人手不足が深刻になる。そこにビジネスチャンスがある。AIでもう一度、日本の企業が世界の時価総額ランキングに名を連ねるようになって欲しいものである。

そのために、先ずは若い人が社内ベンチャーを立ち上げてこの分野に進む必要があると考えている。以下にアンドリュー・ウ氏のAIプロジェクトの立ち上げ方法を紹介する。

①パイロットプロジェクトを実行し勢いをつける
・小さな成功体験の積み重ねができるプロジェクトとする
・無理なことを最初からやらずに、技術的に今出来ることから始め半年〜1年で成果を出す
・中核のプロジェクトでなく、小さすぎないプロジェクトを選択する
(GoogleではGoogleSpeechのプロジェクトから始めてGoogleMapへ進んだ)

②社長直轄のAIチームを作る
・インハウスのチームでプロジェクトを進め、リクルーティングをする
・組織をまたがる社長直轄のプロジェクトチームとする。AIのプラットフォームを全社に提供する
・AIの基礎力をつけたプロジェクトメンバーが社内の複数のプロジェクトをサポートする

③AIのトレーニングを提供する
・AIは仕事の形を変える。AI時代に必要な知識を社員全員に与える
・AIエンジニア、AIプロジェクトリーダ、AIビジネスリーダ向けのカリキュラムを作る
・外部のサービスを利用すれば経済的に多くの社員を教育できる

④AI戦略を作る
・AIの基本を理解していないと思慮深い戦略は立てられない
・首尾一貫した他社が真似するのが難しい戦略を策定する
・自社の産業セクターの中で好循環して優位性を出せるものにAIを使う

⑤内部・外部のコミュニケーションを作る
・AIでどのように顧客価値を作り出すか、という戦略を投資家に説明する
・産業や社会にAIを使うことは重要な道であることを信念と意思を持って語る
・顧客にもたらす大きな利益をと製品ロードマップを示す
【企業における段階的なAI活用のための脚本(by Andrew Ng)】
https://qiita.com/sugulu/items/831b85384b79091f1ee3
https://landing.ai/ai-transformation-playbook/

今の日本の社会には、農業従事者、建設・物流、介護、廃炉、熱練工の後継者などの人材不足という課題がある。また、少子高齢化も進んでおり、今後も永続的な労働力不足が続く。そこで、ものづくりが得意という日本の強みを生かして、認職ができる機械・ロボットなどディープラーニングとものづくりを掛けあわせた新しい試みが必要である。ものづくりの強さを生かして大きな社会課題を解決できれば日本にも大きなチャンスが到来する。

そのためには、スタートアップが重要である。東大のAI研究部隊の役割は重要で本郷バレーと呼べるようにしたい。また、深習学習を起点とした多数パラメータの科学、我々が「理解する」ということの可能性と限界、一般設計学、知の構造化などの新しい科学技術論への取り組みも進んでいく。現代社会の問題を解決するためにAIを使うことの意味を考えていきたい。

idle talk
■ 動物OSから言語アプリの独立
人間は、動物OSの上に言語アプリが乗っている構造になっている。動物OSとは生き延びるための基本的な機能である。言語アプリは、もともとは動物OSに従属していた。長期のプランを立てるために、動物0Sから駆動された。しかし、進化の過程において、ある時から、言語アプリが動物OSを駆動できるようになった。相手の会話から状況を想像し、次の会話を予測して問題を解くようになった。おそらくこれは「サピエンス全史」に書かれているように、虚構を信じ集団としての力を高める効果があったためと思われる。

言語アプリが、記号操作のさまざまな仕組みを産み出した。数学、物理学などの理系学問、哲学や社会学などの人文系学問、将棋や囲などのゲームなど。占星術などのだめなものも生み出したが、社会に役に立つ記号操作のモデルは生き残り、科学技術が生まれた。その結果、言語アプリの能力こそが人間の知能の根源であると思われるようになった。AIはこの延長線上の進化の過程で生まれた成果の一つである。

■ 高次元科学へのアプローチ
人間は、少数パラメータで記述できるものしか理解できないので、ニュートン力学のように少数のパラメータで記述できる系のみを体系化してきたのではないか。現実世界は複雑だが、AIの技術を使い多数パラメータを使えば人間では理解できないものがモデル化でき予測できるようになる。 物理学、化学、生物学、心理学、経済学などは、少数パラメータ系の異なった科学技術として捉えられている。これを多数パラメータ系で捉えるとバラバラに見える学問分野も下のレイヤーで繋がっていることが分かるのではないか。「全体を同時にみる」ことでブレークスルーが起きる可能性がある。「科学の究極の目的は何か」について、もう一度見直してみる時期に来ているのではないか。

近年、知識の膨大化により、様々な学間の専門領域が細分化・複雑化したため、一人の人間が全体像を把握することが困難になってきている。現代社会を取り巻く問題の多くは、多数パラメータ性に起因しているのではないか。地球温暖化などの環境問題、格差や貧困、かつての2000年間題などである。それを解決する際に、取り得るアプローチとしては、2つ考えられる。
① 多数バラメータ系大量のデータとその相互作用を、できるだけシンプルなモデルで近似する。アインシュタインも、ものごとは出来るだけシンプルにすべきだと言っている。オッカムの剃刀世界は分けてもわからない (福岡伸一 著)
俯瞰工学や最近の説明可能AI(Explainable AI)がこれに近い。
② 大量のデータとその相互作用(多数パラメータ系)を、そのままに扱う。
-多数パラメータ系をそのまま社会で扱うための方法論や社会のルール・仕組み作りが必要。これが今後のAIの活用でまさに社会で求められていることではないか。

【高次元科学への誘い by丸山宏 】
https://japan.cnet.com/blog/maruyama/2019/05/01/entry_30022958/

【抽象化の呪い by丸山宏 】
https://japan.cnet.com/blog/maruyama/2010/06/26/entry_27040793/

<感想>
スマホやPCなどのIT機器のハードウエアは人件費が安い中国や韓国が作り、OSはGAFAと呼ばれる会社が提供するという図式が出来ており、ここに日本が切り込んでいくことは難しくなった、そこで、松尾さんが注目したのがアプリの分野でした。AIは究極のアプリケーションです。AIを頭脳にした機械には大きな市場があると思います。モノ作りが得意で手先が器用な日本人は、近い将来、鉄腕アトムのような人を助け、人と共存できるロボットを作り出せるのではないでしょうか。

また、AIが今まで人間が踏み込むことが出来なかった高次元科学、多数パラメータ系の分野に活用出来るというお話も興味深いものでした。現在の社会問題になっている、いじめや引きこもりなどは、たくさんの要素が絡み合ったまさに多数パラメータ系だと思います。戦争がいつまで経ってもなくならないという問題も未だに解けていません。複雑すぎて人間では解明できないと、今まではあきらめていた社会問題を解くツールとしてディープラーニングが使えるようになったらすばらしいと思いました。

AIがこれからどこまで進化して、どんなことに使われていくのか、そして社会をどのように変えていくのか、2045年のシンギュラリティが楽しみになってきました。(廣瀬)

【参考】
人工知能は人間を超えるか 松尾豊 著 (株)KADOKAWA 2015年

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