▶小柴さんの業績(ニュートリノ、天文物理学、カミオカンデ、平成科学基礎財団)

大先輩の小柴さん(中32期)が2002年にノーベル物理学賞を受賞されたことは、あまりにも有名で、横須賀高校の同窓生にとっても、日本国民にとっても大変栄誉のあることです。しかし、門外漢の私には小柴さんがどんな理由でノーベル賞を受賞され、どれだけ凄いことを成し遂げられたのか、さっぱり分かりませんでした。

そこで、無謀にも小柴さんの業績を自分なりに理解するために調べてみました。調べるにつれて小柴さんの物理学者としての偉大さだけでなく、そのお人柄にも魅力を感じるようになりました。(高25期 廣瀬隆夫)

Dr. Koshiba who graduated from our high school was awarded the Nobel Prize in Physics in 2002.This fact is very famous in the world. Alumni of Yokosuka High School and Japanese citizens are proud of his achievement. But actually, I do not know what and how Dr. Koshiba contribute to the development of science.I do not have knowledge of physics. I did not understand the reason for Dr. Koshiba ‘s award for the Nobel prize.

Therefore, I examined Dr. Koshiba’s achievements by myself. Through the study about his life, I started to be fascinated to not only Dr. Koshiba ‘s greatness as a physicist, but also as a virtuous person. (Takao Hirose year 1973 graduates)

■ 小柴さんのノーベル賞の受賞理由って何?
ウイキペディアによりますと、小柴さんの業績は、「日本の物理学者・天文学者。1987年に自らが設計を指導・監督したカミオカンデによって史上初めて自然に発生したニュートリノの観測に成功したことにより、2002年にノーベル物理学賞を受賞した」と書かれています。

世界で初めて凄いことを成し遂げたということは分かりますが、ニュートリノやカミオカンデと言われても良くわかりません。しかも、小柴さんが天文学者であるという記述も納得がいかず謎だらけです。

■ ニュートリノって何?
この謎を解くためには、まず始めにニュートリノは何かを知る必要がありそうです。

私たちの身の回りにはたくさんの物質が存在しています。紀元前400年頃、ギリシャの哲学者のデモクリトスは、すべての物質は原子という、これ以上分けられないものからできているという考えを提唱しました。当時は、原子を見ることはできなかったので、そうではないかと仮説を立てたのです。この仮説の検証ができないまま、長い年月が経ちました。

この原子について科学的な研究が進んだのは19世紀に入ってからで、1897年にイギリスの物理学者のトムソンが、地球を回る月のように、原子は原子核の周りを電子が回っている構造であることを発見しました。

これから原子物理学の研究が急速に進み、原子核は、陽子や中性子などの素粒子と呼ばれる更に小さな物質から成り立っていることが分かってきました。1949年に、この原子物理学の分野で湯川秀樹さんが日本人で初めてノーベル物理学賞を受賞しました。

ニュートリノ(neutrino)は、原子核が崩壊する時に放出される素粒子の一つで、電気を帯びていない中性という意味の「ニュートラル(neutral)」と、小さいという意味の「イノ(ino)」という言葉を組み合わせたもので、イタリアの物理学者フェルミによって名付けられました。

この素粒子は宇宙にはたくさん存在していて、私たちの身の回りにも飛び交っている、かなりありふれた物質のようです。でも、私たちが、その存在に気づかないのは、ニュートリノは他の物質と反応することがなく、物体をすり抜けてしまう性質を持っているからです。そのためニュートリノは「幽霊粒子」とも呼ばれています。

宇宙では核融合を繰り返している太陽や超新星で作られており、地球にも大量に降りそそいでいます。当然、人工的に核分裂を起こさせてエネルギーを作り出している原子力発電所からも放出されています。

■ ニュートリノを観測するカミオカンデ
小柴さんは、若い頃から世界はどんな物質でできているのか、宇宙はどうなっているのかに興味を持っていました。大学では、この幽霊のようなニュートリノをどのようにしたら、とらえることが出来るかを研究していました。そのアイデアは、米国のロチェスター大学に留学しているときに思いつきました。

小柴さんは、こんなことを言っています。「空高く飛んでいる小さな飛行機の動きを追いかけるのは難しいが、ひこうき雲を見て軌跡を追っていけば、飛行機がどこを飛んでいるかを知ることができる」要するに、見えないものでも、何かに写すことで、その存在を確認できるというのです。

カミオカンデは、ニュートリノを観測する装置で、地上から発生する不要なノイズの影響を防ぐために、鉱山の地中1000メートルの深さに作った直径19メートル、高さ23メートルの巨大な水槽にはった水の中に、1000個の光電子増倍管を設置したものです。光電子増倍管は、微弱な光を電気に変換する装置で、高い感度を持ったテレビカメラのようなものです。

小柴さんは、このアイデアを実現する装置を一晩で設計し、どうしても日本の会社に装置を作ってもらいたいと思い、旧知の浜松ホトニクスの社長に制作を依頼しました。大口径の光電子倍増管を使ったカミオカンデの開発は未知の分野で難しい仕事でしたので、すぐには了解してもらえませんでした。小柴さんは社長を3時間もかけて説得したと言われています。カミオカンデを共同開発した浜松フォトニクスは、日本のテレビの父と言われている高柳健次郎さんの志を受け継いだ、この分野では世界的にもトップクラスの会社です。

ニュートリノは水の中を移動する時に、チェレンコフ光という青白い光を発します。カミオカンデの光電子増倍管は、この僅かな光をとらえることが出来ます。この光を観測することでニュートリノを観察することができるのです。

カミオカンデという名前は、英語でKamiokaNDEと書きますが、最初の文字は装置を設置した神岡鉱山のある地名のKamiokaです。後半のNDEは、陽子崩壊実験(Nuclear Decay Experiment)の頭文字をとったもので、原子核を構成する陽子の崩壊を観測するという意味です。

小柴さんは、自らが考案して岐阜県飛騨市の神岡に作った、この装置で辛抱強くニュートリノの観測を行いました。

■ カミオカンデが超新星爆発からのニュートリノをとらえる
1987年に、カミオカンデでニュートリノの観測を行っている絶妙のタイミングで、はるか遠くの大マゼラン銀河において、太陽の8倍以上の大きさを持った恒星が、核融合を終えて死を迎える時の超新星爆発を起こしました。この時、宇宙に放出されたニュートリノがカミオカンデで観測されたのです。

小柴さんのチームは、この観測結果を論文にまとめて報告しました。世界で最初に超新星爆発で発生したニュートリノをとらえたことが認められて、世界中から賞賛されました。小柴さんは、この功績で2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。

■ ニュートリノ天体物理学の誕生
カミオカンデは改良を重ねて、太陽からのニュートリノを到達時刻、到達方向、エネルギー分布の全てが分かる形で観測できるようになりました。今は、さらに性能があがったスーパーカミオカンデが稼働しています。

小柴さんの研究の成果により、ニュートリノを観測することで宇宙の仕組みを解明するという「ニュートリノ天体物理学」が日本で誕生したのです。これが、小柴さんが天文学者でもあると言われている理由です。

■ 基礎研究への貢献と教育者としての業績
受賞の翌年の2003年に、小柴さんはノーベル物理学賞の賞金等をもとに平成基礎科学財団を設立しました。自然科学に関する基礎的な知識や思想を普及させて未来の物理学者を育てるために、高校生を対象とした「楽しむ科学教室」などの啓蒙活動を行いました。

また、小柴研究室に所属してスーパーカミオカンデで大気ニュートリノを研究していた梶田隆章さんが2015年に「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」でノーベル物理学賞を受賞しました。師弟でノーベル賞を受賞した例は極めて珍しく、小柴さんは教育者としても大きな足跡を残しました。

小柴さんが講演会などで子どもたちに話されたお話の中に、私の好きな言葉があります。「どんなに小さなことでも、いつかは実現したいという夢の卵を三つか四つ胸に抱いて生きると良い」

少年の頃、足が悪かった小柴さんは、横須賀中央から衣笠の横須賀中学(現在の横須賀高校)に2時間もかけて歩いて通ったそうです。

小柴さんは、世界はどんな物質でできているのか、宇宙はどうなっているのかを解き明かしたい、という少年の時に描いた大きな夢をずっと持ち続けて、辛抱強く努力を続けました。

その考え方の根底には「志を大きく持て」という初代校長吉田庫三先生の教えがあったのではないかと思います。

【参考文献】
・ニュートリノの夢 小柴昌俊著 岩波ジュニア新書 2010年
・ニュートリノってナンダ? 荒舩良孝 成文堂新光社 2015年
・ニュートリノ小さな大発見 梶田隆章 朝日新聞出版 2016年
小柴昌俊さんのウィキペディア
スーパーカミオカンデ公式ホームページ
カミオカンデ ウィキペディア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。